仙台高等裁判所 昭和29年(う)566号 判決
原判示第一の(一)及び(二)の各事実はその挙示する証拠により優に認定するに足り、かつ記録を精査するも右認定に誤りがあるとは認められない、論旨は刑法第百五十六条の罪の主体は公務員、しかもその職務上当該文書を作成する権限のある公務員でなければならないものであるところ本件審査合格書作成の権限を有する公務員は栗原地方事務所長であつて、被告人の如きは、その建築審査の補助機関に過ぎないもので公務員の身分を有しない者と何等異なるところはないから虚偽公文書作成に関し通謀等の事実なき限り被告人単独の行為については直接正犯たると間接正犯たるとを問わず、本犯罪の主体たり得ないばかりでなく、その偽造にかかる虚偽の文書を行使しても虚偽公文書行使罪にあたらないというのである。しかしながら公務員の身分を有しない者が虚偽の申立を為し情を知らない公務員をして虚偽の文書を作成させても刑法第百五十六条の間接正犯の成立しないことは所論判例の示す通りであるが、之と異り職務上上司を補佐して公文書の起案を担当する公務員が行使の目的を以てその職務上起案を担当する文書につき内容虚偽のものを起案し之を情を知らない上司即ち作成権限者たる公務員に提出し、該上司をして該文書の内容を真実なものと誤信して署名押印せしめ、以て内容虚偽の公文書を作成せしめる行為は刑法第百五十六条の間接正犯を以て論ずべきものと解すべきである。本件についてこれをみるに原判決の認定した事実によれば被告人は原判示第一の(一)及び(二)の犯行当時栗原地方事務所長の下にあつて同事務所の建築係として一般建築に関する建築申請書類の審査、建築物の現場審査並びに住宅金融公庫よりの融資により建築せられる住宅の建築設計審査、建築進行状況の審査及びこれらに関する文書の起案等の職務を担当していたものであるところ、その地位を利用し行使の目的を以て原判示第一の(一)(二)の如く未だ着工していない鈴木源二の住宅の現場審査申請書に建前が完了した旨、又は屋根葺、荒壁完了した旨、いずれも虚偽の報告記載をし、之を右住宅の現場審査合格書の作成権限者たる栗原地方事務所長斉藤倫一に提出し情を知らない同人をして真実その報告記載の通り建築が進行したものと誤信させて所要の記名押印をなさしめ、以てそれぞれ内容虚偽の現場審査合格書を作成せしめたものであるから、被告人の右行為を刑法第百五十六条に問擬し、右虚偽の各審査合格書を原判示各関係官庁並びに銀行に提出行使した所為を、各同法第百五十八条の罪を構成するものと認定した原判決は正当で、所論の如く法律の解釈適用を誤り事実の認定を誤つた違法は存しない。論旨は理由がない。
(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 裁判官 細野幸雄)